乗っている電車が目的地に到着し、ドアが開くのとほぼ同時にわたしはホームへ飛び出す。急いでいた。停車中の電車すれすれを走りながらホーム端にある改札へと向かう。屋外の生温い湿気と電車のドアから漏れる冷気が交互に身体へぶつかってくるのが面白い。思考が"今年の夏"へと変わっていく。毎日続く酷暑もそろそろ終わって、秋が来たら自分はまたドイツの生活へ戻らなければいけない。ずっと渇望してたはずなのに少し悲しかった。

 

駅のホームに居る人達へぶつからないよう注意深く急いでいたら、蛾が死んでいるのを発見してしまって衝撃を受けた。大好きな蛾の死骸を見てしまったからでも、自分の手で安全地帯へ移動させることが出来なかったからでもない。その時持っていた"夏が終わること"に対しての感情が蛾の死骸として現れたので、視覚を通して再び自分に吸収されたからだと思う。